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職業性呼吸器疾患の解説・論文 目次
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解説・論文
職業性呼吸器疾患の解説・論文
首都圏における建設作業者の石綿関連疾患
海老原 勇*,川見 正機**,藤井 正實**,斎藤 洋太郎**
Asbestos related diseases among construction workers
in metropolitan area
by
Isamu Ebihara,Masaki Kawami,Masami Fujii,Youtaro Saito
要旨: 首都圏における建設国保組合および建設労働組合と協同で建設作業者の石綿関連疾患について検討した。その結果、胸膜肥厚斑はもちろん、石綿胸膜炎、石綿肺、石綿関連肺癌、悪性中皮腫など、全ての石綿関連疾患が発掘された。悪性中皮腫を除き、いずれの疾患も石綿暴露との関連性は全く検討されぬまま、非特異的あるいは原因不明の胸膜炎、慢性気管支炎、肺線維症、間質性肺炎、一般的な肺癌と診断され、私病として治療を受けていた。悪性中皮腫でも石綿暴露との関連性は考慮されていたものの、業務上疾患としての手続きはなされていなかった。いずれの疾患とも発症年齢は比較的若く、発症率も少なくない。予防とともに、被災者の発掘と補償の取り組みを一一層強めることが重要である。
Key Words: Asbetos pleural effuslon,Dirfuse pleural thickening,AsbestosIs,lung cancer,Malgnant mesothelioma
 石綿胸膜炎、びまん性胸膜肥厚、石綿肺、肺癌、悪性中皮腫
  はじめに
 我が国の石綿の輸入量は、それまで4万トン前後だったが高度経済成長政策の始まる1960年前後に急激に増加し、1974年には過去最高の35万トンにも達した。その後、石綿輸入量は増減を繰り返しつつ1983年には24万トンにまで減少した。しかし、1988年には再び32万トンにまで増加した。それ以降は減少してはいるが、1995年でも19万トンもの石綿が輸入されている。
 他方、消費される石綿のうち、石綿セメント製品として消費される割合は、1981年には74.2%であったものが次第に増加し、1993年以降は90%を越えるようになった。石綿セメント製品はスレートや石綿セメント板などであり、多くは建築材として使用されている。したがって、建設労働者は直接的ないし間接的な石綿暴露を受けることとなり、我が国では最大の石綿暴露を受ける労働者集団であると云える。
 この点、米国でも、石綿の暴露を受ける最大の集団は建設労働者である1)、と云われており、また、建設産業にたずさわる作業者は、自分では日常的に石綿を使用しないものの、作業場に存在する石綿含有の建材を取り扱うことでriskをうける。
 例えば、鉄工はしばしば建設業に従事し、建物の補修や解体に際して石綿が吹き付けられた鉄骨に触れることで石綿暴露を受け、石綿関連疾患が発症する2)と指摘されている。
 しかし、建設作業現場での作業環境測定の成績も少なく、建設作業者の石綿関連疾患に関する系統的な検討も極めて限られていると云わざるを得ない。
 我々は、建設作業者に石綿による健康障害が広がることを予測し、建設作業者が加盟する、全日本建設労働組合総連合会(全建総連)に提唱して、全建総連「アスベスト対策委員会」を発足させた(1987年)。
 それ以降、今日まで、全建総連参加の神奈川県建設労働組合連合会および神奈川県建設連合国保組合、東京土建一般労働組合および東京土建国保組合など、埼玉、千葉を含めた首都圏の建設組合の方々とともに、建設作業者の石綿による健康障害の実態調査と予防および補償に取り組んできた。
 本稿は、建設作業者の石綿関連疾患についての予防対策が確立し、障害を受けた作業者の補償がより一層進むことを願いつつ、これまで我々が蓄積した建設作業者の石綿関連疾患に関する知見を報告するものである。
  J.建設作業者の石綿胸膜炎
A.石綿胸膜炎と診断された例の検討
 建設作業者の石綿関連疾患の検討を開始して以来、今日までに建設作業者で、胸水貯留を伴う胸膜炎に罹患し、結核性胸膜炎、癌性胸膜炎、膠原病関連の胸膜炎などを鑑別し、石綿胸膜炎と診断された例は6例であった(Table1)。
 職種は配管工2例、保温工、鉄工、ハツリ工、電工が各1例で、多くの職種から発症している。石綿胸膜炎例の石綿肺所見は、2型1例、1型2例で、半数の3例は石綿肺所見を認めなかった。
 6例中3例に胸膜肥厚斑を認めたが、石綿肺も胸膜肥厚斑も認めず、石綿胸膜炎のみの所見を示した例は2例であった。
 2つの造船所、一つの石綿製品製造作業所および3つの製紙工場の作業者の石綿胸膜炎の発症状況を検討したEplerら3)によると、高度暴露作業者の有病率7.0%、羅患率9.2人/1000人年、間接暴露作業者で有病率3.7%、羅患率3.9人/1000人年、周辺暴露作業者で有病率0.2%、雁患率は0.7人/1000人年と、石綿暴露量と相関関係を認めたとしている。
 我が国での石綿作業に関連する石綿胸膜炎の発症についての報告は皆無に等しいため、Eplerらの報告3)を元に推察すると、この間に石綿胸膜炎と診断できた6例は、建設作業者に発症する石綿胸膜炎の、ごく一部にすぎないと考えられる。特に、建設作業者の石綿胸膜炎6例中2例は胸膜炎のみが石綿関連疾患であったが、こうした例の多くは職歴調査が診断の決め手となることから、原因不明の胸膜炎、特発性胸膜炎などとして、殆どが潜在していると考えられる。そして、前記のEplerらの報告3)によると、石綿胸膜炎、石綿肺、胸膜肥厚斑、胸膜石灰化の4つの石綿関連疾患の石綿暴露から発症までの期間を見ると、石綿暴露開始後10年未満では石綿胸膜炎が唯一の石綿関連疾患であり、20年未満では石綿胸膜炎が最も多い石綿関連疾患であった。こうした石綿胸膜炎発症の特徴から、若年者の石綿胸膜炎が多いと考えられるが、他の石綿関連疾患の併発が少ないことも関連して、殆どが正しく診断されていないと推察される。
B.建設作業者に見られた石綿胸膜炎の症例
1)石綿吹き付け作業者の石綿胸膜炎
 Fig.1は保温作業に約40年間従事した石綿胸膜炎で、結核性変化は認められず、癌性胸膜炎も否定された例である。本例は胸膜肥厚斑を認め、石綿関連疾患として確立している円形無気肺(rounded atelectasis)4)5)を認めることなどから石綿胸膜炎と診断された(Fig.2)。
Fig.2 保温作業の石綿胸膜炎例の胸部CT写真
右肺に円形無気肺を認めるほか、左肺の傍脊椎域から背部にかけて、壁側胸膜の胸膜肥厚斑が認められる。
Fig.1 保温作業の石綿胸膜炎
右肺の胸膜炎が認められるほか、左肺の側胸壁に胸膜肥厚斑を認める。
Fig.3 水道配管工の石綿胸膜炎
両側に胸膜炎が発症し、びまん性胸膜肥厚の所見が見られる。しかし、肺実質の線維化は見られない。
2)配管エの石綿胸膜炎
 18歳より水道配管作業に従事していたが、特に、工業地帯のプラントでの配管作業や、ビルの配管の交換時にハツリ作業をすることにより石綿の暴露を受けていた。65歳の夏、特別な誘因もなく呼吸困難と胸痛を自覚し受診した。胸部レントゲン写真で、両側に胸水を認めた(Fig.3)が、肺実質の線維化はごく軽度で、不整型陰影0/1であり、肺内に結核性変化や悪性所見は認められなかった。胸水の性状なども含めた除外診断で、石綿胸膜炎と診断された。
  K.建設労働者の石綿肺
A.石綿肺として休業治療が認められた例の検討
 建設労働者では、石綿暴露による胸膜肥厚斑の有所見者率は大工で2.46%に認められるものの、一般健康診断で撮影した胸部レントゲン写真のみで石綿肺の発生状況を検討することには限界がある。
 一方、建設作業者の石綿による健康障害は正しく診断されず、間質性肺炎や慢性気管支炎などの一般的疾患として潜在している可能性が高い。このような状況を打開し、石綿による健康障害を正当に診断するため、首都圏の建設組合および建設国保組合と共同で発掘作業をすすめてきた。その概略は、神奈川県建設労連および神奈川県建設連合国保組合では1991年から、東京土建一般労組および東京土建国保組合では1996年から、調査委員会を発足させ、定期健康診断で撮影した胸部レントゲン写真の再読影や慢性呼吸器疾患で受診している者を抽出して精密検査するなど、多彩な作業を続けてきた。
 こうした検討をとおして、石綿肺と確定診断され業務上疾患として認定、休業治療を受けるようになった石綿肺について検討することにした。
 調査、発掘を開始してから2002年8月までに石綿肺として休業治療を認められた例は31例で、年齢、職種、石綿肺の程度、胸膜病変の種類についてはTable2 に示した。職種では石綿吹き付け工2例、保温工2例で、高濃度の石綿暴露を受ける職種であり、石綿肺の程度はいずれも3型と高度で、石綿吹き付け工は2例ともびまん性胸膜肥厚により、肺活量の低下が著しかった。また、年齢も石綿吹き付け工で42歳と59歳と若年で、42歳で死亡した例は、作業年数は僅かに6年であった。
 鳶・ハツリ作業者は建物の解体作業により、遊離珪酸じんや石綿粉じんなど、種々の粉じんを吸入する。こうした作業者は珪肺優位のじん肺から石綿肺優位のじん肺まで、多彩なじん肺所見を呈する。これまでに4例が認められ、平均年齢63歳、石綿肺所見は1型1例、2型2例、3型1例で、1例は石綿によるbenign pleufal effusionの発症も観察された。
 大工の石綿肺認定例は14例で、1型1例、2型10例、3型3例であり、大工においても、かなり高度の石綿肺が発症することが確認された。しかも、これらの大工症例は、ごく普通の大工さんで、石綿入り建材を特に使用する頻度の高い、特殊な作業者ではなかったことが注目された。さらに、平均年齢も64.7歳であり、作業年数も40年ほどであった。
 また、配管工、電工、エレベーター設置作業者、板金工の各2例に、極めて重症の石綿肺が認められた。これらの作業による石綿肺例のなかにも、40歳代、50歳代と若齢の者が目立った。
B.建設労働者に見られた典型的な石綿肺の症例
Fig.4 石綿吹き付け作業者の石綿肺
石綿吹き付け作業に僅か6年間従事した者の石綿肺
両側に高度のびまん性胸膜肥厚に加え、両側下葉に石綿肺所見が見られる。
また、右肺S1には無気肺が認められる。
1)石綿吹き付け作業者の石綿肺
 建物の耐火目的で石綿の吹き付け作業が行われることがある。極めて高濃度の石綿の暴露を受ける作業である。Fig.4、Fig.5は石綿吹き付け作業に僅か6年間従事した者の胸部レントゲン写真と大切片標本である。両側の高度のびまん性胸膜肥厚と両下葉の限局性の蜂窟肺および右肺S1の無気肺による線維化が見られる。こうした高度の変化により、本例は42歳の若さで他界された。
 石綿吹き付け作業は、このような高度の肺変化を惹き起こすことから、1975年に原則的に禁止となった。
Fig.5 石綿吹き付け作業者の石綿肺(大切片標本)
肺全体を包むように胸膜の癒着が高度である。
両側の肋横角部に蜂裔肺が見られ、右肺は広範囲に無気肺に陥っている。
2)空調・保温エの石綿肺
 Fig.6は空調作業に26年間従事して高度の石綿肺に罷患した者である。両側側胸部に典型的な胸膜肥厚斑とともに、中下野に蜂窟肺を反映した小輪状影を認める。典型的な石綿肺の所見であるが、特発性問質性肺炎と診断されていた。
 我々の病院に受診し、石綿肺と診断されたが数年後に呼吸不全にて永眠された。Fig.7に剖検肺の大切片標本を示した。
 空調・保温工には、本例のような高度の石綿肺を高率に認めるが、多くが特発性間質性肺炎との診断を受けているのが現状である。

3)鳶・ハツリエの石綿肺
 鳶・ハツリ作業では建物の解体作業に従事することが多く、セメント粉じんや石膏ボード等からの粉じんとともに、建物に含まれている石綿の暴露を受ける。Fig.8は鳶職に50年間従事した70歳の時の胸部レントゲン写真である。全肺野に微細な粒状影(2/2p)を認めるほか、両側下肺野に間質の線維化が見られ、両側側胸部に胸膜肥厚斑を認める。
 鳶・ハツリ作業者では、遊離珪酸じんや各種の鉱物性粉じんとともに、石綿の暴露を受けることから、本例のようなじん肺所見を示す例が少なくない。
Fig.8 ハツリ工の石綿肺・珪肺
全肺野に微細な粒状影(2/2p)を認めるほか、両側下肺野に間質の線維化が見られ、両側側胸部に胸膜肥厚斑を認める。
Fig.6 空調・保温工の石綿肺
両側側胸部に典型的な胸膜肥厚斑見られ、中下野に小輪状影を認め、典型的な石綿肺の所見である。
Fig.7 空調・保温工の石綿肺(大切片標本)
中肺野から下肺野にかけて広い範囲に蜂萬肺所見が見られる。
4)大エの石綿肺
 石綿セメント板やサイディング材など、石綿含有建材の急激な増加により、一般の大工でも石綿の間接暴露のみならず直接暴露の機会が増加している。とくに、石綿含有建材の、電動丸鋸での切断や張り付け作業では、極めて高濃度の石綿の暴露を受けることとなる。そのため、大工も石綿肺の所見を示す症例が見られるようになった。
 Fig.9は大工作業に35年間従事した60歳の男性で、両側中下肺野に間質の線維化(2/2s)を認め、両側横隔膜面胸膜に胸膜肥厚斑を示す典型的な石綿肺の例である。
 Fig.10は68歳の大工で、43年間大工以外の職業に従事したことはない。比較的不揃いの小輪状影が高度で、両側の側胸部及び横隔膜面胸膜に石灰化を伴う広範な胸膜肥厚斑を示す高度な石綿肺所見を呈する(3/3石綿肺)。本例はしばしばマンションの建築に従事したことから、鉄筋に吹き付けて有る石綿の間接暴露を受ける機会が多い傾向が見られるが、大工作業のみで、これほど典型的かつ高度の石綿肺が発症することを銘記したい。
Fig.9 大工の石綿肺
両側中下肺野に石綿肺(2/2s)横隔膜面胸膜および両側側胸部に胸膜肥厚斑が見られる。
Fig.10 大工の石綿肺
両側の側胸部及び横隔膜面胸膜に石灰化を伴う広範な胸膜肥厚斑が見られ、両側の中・下肺野に小輪状影が見られる高度な石綿肺である。
5)電エの石綿肺
 電工は電気の配線に際し、石綿含有の壁材や天井材を穿孔したり狭い空間に入り込んでの作業により、石綿暴露を受ける。また、以前は電線の被覆材に石綿が使用されていたこともあった。時には石綿で絶縁した電気機器の修理作業などで石綿の暴露を受ける。
 Fig.11は約35年間電気の配線工事に従事した74歳の電工の胸部レントゲン写真である。両側中下肺野に小輪状影が多数形成され、左上肺野には巨大なのう状気腫が形成されている。非定型像を示す高度の肺線維化所見であるが、胸部背腹像では胸膜肥厚斑は認められない。CTでTh8〜10の高さの傍脊椎域から背部にかけて、両側に壁側胸膜のden−sityの増強が見られ、胸膜肥厚斑の存在が示唆された(Fig.12)。剖検では、CTで認められた範囲に手掌大の典型的な胸膜肥厚斑が認められた(Fig.13)。以上の所見から、本例は3/+と高度の石綿肺と診断された。

6)板金エの石綿肺
 Fig.14は、47歳で石綿肺で死亡された板金工の胸部レンげン写真である。広範なびまん性胸膜肥厚とともに、肺実質の線維化が強く、石綿肺2/3である。呼吸困難が強いため、働くことが出来ずにいたが、正しく診断されず「びまん性汎細気管支炎」と診断されていたため補償もうけられず生活苦にあえいでいた。
 本例は、18歳ごろより父の元で板金作業の修行を始めた。当時は、ストーブや風呂釜の設置作業が主な作業で、煙突よりの熱を遮断する目的で石綿を使用したり、石綿入りの煙突を設置する際に切断するなど、石綿暴露が多かったと述べている。
Fig.12 電工の石綿肺(CT)
前記の胸部CT写真。しかし、CTでは傍脊椎域から背部にかけて、両側に壁側胸膜の胸膜肥厚斑が見られる。
Fig.11 電工の石綿肺
両側中下肺野に異常線状影と小輪状影が見られ、左上肺野には巨大なのう状気腫が形成されている。胸膜肥厚斑は認められない。
Fig.13 電工の壁側胸膜の肉眼所見
剖検にて、CTで認められた範囲に手掌大の典型的な胸膜肥厚斑が認められた。
Fig.14 板金工の石綿肺
両側に広範なびまん性胸膜肥厚が見られ、全肺野に肺実質の線維化が強く、高度の石綿肺所見を呈している。
7)エレベーター設置作業者の石綿肺
 エレベーター設置に際して、石綿が吹き付けられている鉄骨構造と接して作業し、あるいは吹き付けられた石綿を除去する作業を行う。また、エレベーターのシャフトやブレーキ、動力室に石綿が使用されており、そこからの石綿暴露を受けている。
 Fig.15 はエレベーター設置作業者の胸部レントゲン写真である。びまん性胸膜肥厚、3/+と高度の石綿肺所見が認められる。本例は肺線維症と診断され、在宅酸素療法を受けていた66歳の男性である。組合と国保組合の取り組みの中から、重篤な石綿肺と正当な診断を受けるに至った例である。


Fig.15 エレベータ設置作業者の石綿肺
高度のびまん性胸膜肥厚と、高度の間質の線維化とから、高度の石綿肺と診断された。
8)塗装エのじん肺
 塗装工は、主として間接暴露により胸膜肥厚斑の発生が認められる。しかし、間接暴露であっても、暴露量が多くなれば石綿肺の発症に結びつく。Fig.16は63歳の塗装工で、約28年間家具専門の塗装作業に従事し、その後23年間は建築塗装作業に従事した。家具塗装では木材粉じんとともに、砥の粉などの鉱物性粉じんの暴露を受けていたが、建築塗装になってからは天井や壁、鉄筋、鉄骨に塗装することが多く、その際、顔料としてのチタン等の鉱物性粉じんを扱うことで吸入する機会が有った。また、石綿吹き付け作業者に隣接して作業するなどで間接暴露を受けた。また、古い建物の再塗装作業では、吹き付けられた石綿の近辺を塗装したり、石綿を掻き落として塗装するなどの作業で石綿暴露を受けていた。胸部レントゲン写真で、上肺野に微細な粒状影(2/1p)が見られ、下肺野には間質の線維化所見が見られ、胸部CTにて両側下部の壁側胸膜に胸膜肥厚斑を認めた(Fig.17)。
Fig.16 塗装工のじん肺
胸部レントゲン写真で、上肺野に微細な粒状影(2/1p)が見られ、下肺野には間質の線維化所見が見られる。また、横隔膜面に胸膜肥厚斑が認められる。
Fig.17 塗装工のじん肺(胸部CT写真)
両側の第7胸椎より下部の壁側胸膜に胸膜肥厚斑を認める。
C.考察
 胸膜肥厚斑と異なり、比較的多量の石綿暴露で発症すると考えられている石綿肺も、建設作業の多くの職種に認めることができた。しかし、建設作業では石綿以外に、他の鉱物性粉じんや木材などの有機性粉じんの暴露を受けており、Fig.16,17に示した塗装工の例のように、微細な粒状影と、異常線状影が混在した所見を示す例が多く、CTで石綿暴露指標としての胸膜肥厚斑を認め、総合的に「石綿を含む鉱物性粉じんによるじん肺」と診断可能となる症例が少なくない。
 とはいえ、石綿含有建材の急激な増加に伴い、典型的な石綿肺所見を呈する症例も、多くの職種で認められるようになった。特にFig.9に示した大工の症例およびFig.11〜Fig.13に示した電工の症例は、呼吸機能の低下も著しく、石綿肺管理4として業務上疾患の補償を受けている。
 配管工(鉛管工)、空調保温工、大工、電工、塗装工、板金工、保守作業者などで構成される、学校での保守・管理作業に10年以上勤務する者7.3%に石綿肺を認めたとのBalmesらの報告6)は、多彩な建設作業者全体に高率の石綿肺の存在を指摘している。また、板金工に関しては、ニューヨーク市の板金工707名中10.4%に石綿肺所見を認め、作業年数30年以上で22%に石綿肺を認めたとのDruckerら7)の報告や、同じく米国の板金工組合に属する299名中12名 4%に石綿肺を認めたBakerら1)の報告、米国とカナダ7つの市の、建設産業で働く板金工の35.5%に石綿肺所見を認めたSelikoffら8)の報告など、かなり高率の異常者率が報告されている。
 鉄工については、Fishbeinら2)がNew York metropolitan areaの作業者7%に肺実質変化を認め、機械工や機械設置者についてもFishbeinら9)が11.7射こ石綿肺所見を認めたとしている。
 建設作業者の石綿肺に関する報告は、必ずしも多いとは云えない。とはいえ、いずれも、間接暴露を主体とする石綿暴露作業者に、石綿肺の所見を有する者が高率に認められるとの報告は、症例を主体とする我々の検討と矛盾しないものである。
 ともあれ、こうした典型的かつ重症の石綿肺が建設労働者に見られることから、作業現場での粉じん管理を徹底すること、石綿含有建材を代替材に切り替えること等の予防対策を徹底するとともに、じん肺検診や特化則による健康管理対策を充分に実施することが不可欠であろう。
  L.建設労働者の肺癌
A.石綿関連肺癌として認められた例の検討
 建設現場での石綿の直接暴露・間接暴露により、多くの職種で胸膜肥厚斑の発生が増加するとともに、重症の石綿肺の症例をも経験するようになった。こうした状況は、従来から石綿を多用する空調・保温工以外の広範な職種にも石綿関連肺癌の存在を予測させる。そこで、我々は、建設作業者の肺癌の−例一例について、石綿暴露との関連性の有無を検討し、石綿関連肺癌と判断出来た例については業務上肺癌として認定申請した。
 これまでに検討することが出来た建設作業者の肺癌症例は極めて数少ない。これまでに我々が調査、発掘し石綿関連肺癌と認められた19症例をTable3 に示したが、検討した症例の殆どが業務上疾患として認められている。
 石綿関連肺癌19例の年齢は55歳から70歳で、平均60.8±3.8歳と、一般の肺癌好発年齢より若齢であった。職種は、空調・保温工3例、解体工2例と、5例が高濃度石綿暴露作業であった。また、大工6例、配管工4例、板金工、電工、左官、タイル工がそれぞれ1例であった。
 石綿肺所見を有する者は19例中5例(26%)で、保温工3例中2例が1型、解体工1例が1型と、軽度の石綿肺所見であった。大工の肺癌6例中4例は石綿肺所見を認めなかったが、2型1例、3型1例と、他の職種より高度の石綿肺所見を示す例が見られた。また、その他の職種の肺癌例は、全例で石綿肺所見を認めなかった。
 胸部レントゲン写真で胸膜肥厚斑を認めた例は19例中11例で、石綿肺所見と胸膜肥厚斑の両方の所見を認める5例を除く6例が、胸膜肥厚斑のみの所見で石綿関連肺癌と認められた。
 他方、石綿肺所見および胸部レンげン写真による胸膜肥厚斑の両者ともに認められなかった例は19例中8例であった。この8例中7例が剖検で、1例が手術時の所見として、いずれも壁側胸膜に胸膜肥厚斑を認めた。この点が石綿関連肺癌と認定される重要な根拠となった。
B.建設労働者に見られた石綿関連肺癌の症例
1)石綿肺と胸膜肥厚斑を認めた大エの肺癌例
Fig.18 大工の石綿肺に合併した肺癌
高度の石綿肺および右肺横隔膜のテント部に、典型的な石綿による石灰化した胸膜肥厚斑が認められる。右肺下葉には腺癌が発症している。
 Fig.18 は大工の肺癌症例の胸部レンげン写真である。3/3と高度の石綿肺を基盤に、右肺下葉原発の腺痛が発症している。右肺横隔膜のテント部に、典型的な石綿による石灰化した胸膜肥厚斑が認められる。18歳から個人住宅を中心とした家屋の建築に従事する、ごく普通の大工で、60歳に肺癌を発症した。普通の大工さんが、本人のみならず多くの同僚たちも石綿暴露を受けていることも知らずに作業を続けるなか、高度の石綿肺に罹患し、ついには肺癌に罹患してしまったのである。本例は臨床的に典型的な石綿関連肺癌であることは明確な症例である。しかし、これほどの典型例であったが、一般の肺癌としか診断されていなかった。建設国保組合および建設組合との共同作業で顕在化した例である。

2)臨床的に胸膜肥厚斑を認めた石綿関連肺癌(配管エ)
 建設組合の実施する定期検診で撮影した胸部レンげン写真の再読影の取り組みのなかで発見された配管工の例である。胸部レンげン写真(Fig.19)で、両側の側胸部に約4mmの厚さで、長径45mに及ぶ比較的濃度の濃い胸膜肥厚斑を示す陰影が認められるが、石綿肺所見は認められない。左肺S3に見られる腫癌状の陰影は扁平上皮癌で、摘出術をうけた。Fig.20は胸部CT像で、背部から側胸部に壁側胸膜の胸膜肥厚斑が確認された。
 本例は、19歳のころより配管工として水道の配管作業に約40年間従事していた。ビルなどの水道管の修理や管の交換に際して、建物をハツって既設の水道管を露出する作業が不可欠である。その際、建物に使用されている石綿暴露を受けていた。
Fig.19 配管工の肺癌
両側の側胸部に約4mmの厚さで、長径45mmに及ぶ比較的濃度の濃い胸膜肥厚斑が認められるが、石綿肺所見は認められない。左肺S3に見られる腫癌状の陰影は扁平上皮癌で、摘出術をうけた。
Fig.20 配管工の胸部CT写真
背部から側胸部に壁側胸膜の胸膜肥厚斑が見られる。
3)臨床的には石綿肺、胸膜肥厚斑ともに認めず、剖検で広範な胸膜肥厚斑を認めた石綿関連肺癌
 胸部レントゲン写真や胸部CTにて石綿肺や胸膜肥厚斑を認めなくても、剖検で胸膜肥厚斑が認められれば、石綿関連肺癌として認められる。
 胸膜肥厚斑は胸部レントゲン写真に異常影を示しにくい。建設作業者の場合、胸部レントゲン写真では約3%程度にきり認められないが、剖検では約80%に胸膜肥厚斑を認められる。したがって、臨床的に胸膜肥厚斑を認めなかったが、剖検で胸膜肥厚斑を認める症例は少なくない。
 Fig.21は大工の胸部レントゲン写真である。左肺の心陰影に一致して肺癌の陰影を認める。しかし、石綿肺所見や胸膜肥厚斑の所見は認められない。胸部CTにても胸膜肥厚斑は確認できなかったが、剖検では典型的な胸膜肥厚斑が広範に認められた(Fig.22)。
 本例のように、臨床的には胸膜肥厚斑を認めることが出来ないものの、剖検で胸膜肥厚斑を確認した肺癌症例は、これまでに、大工3例、配管工2例、板金工、左官、タイル工各1例、計8例経験している(Table3)。いずれも、肺内の石綿分析で多量の含鉄小体を検出し、S線マイクロアナライザーにてアモサイトやトレモライトの存在が確認されたことから、石綿関連肺癌と認められている。
 建設作業者では、高度の石綿肺と胸膜肥厚斑を認める肺癌症例でさえ一般の肺癌と診断されている現状では、臨床的な所見のない肺癌例は全て−般の肺癌と診断されている。
 建設労働の多くが石綿暴露作業であるとの認識が、現状では極めて稀薄であり、石綿暴露の客観的な臨床的指標である胸膜肥厚斑も、臨床医の中に浸透していないこと、また、胸膜肥厚斑は、石灰化が進まないうちはレントゲン所見にあらわれ難いこと等の理由で、建設労働者の肺癌について、石綿関連疾患であるかどうかの検討すらなされていないのが現状である。
 しかし、剖検での胸膜肥厚斑の高率な存在および建設作業者の肺内石綿量の多さなどを考慮すると、「現場で作業する建設作業者の肺癌の殆どが石綿関連疾患である」と考えることが重要であろう。
 また、石綿関連肺癌の予防のためにも、石綿含有建材の表示、石綿関連疾患および予防についての教育を徹底するとともに、関係機関は、建設労働が石綿暴露作業であることを早急に確認し、充分な行政指導が進められなければならないだろう。
Fig.21 大工の肺癌
左肺の心陰影に一致して肺癌の陰影を認めが、石綿肺所見や胸膜肥厚斑は認められない。
Fig.22 大工の肺癌例の壁側胸膜
剖検で、中下肺の傍脊椎域から背部にかけて、肋骨に添うような形の典型的な胸膜肥厚斑が広範に認められた。
  M.建設作業者の悪性中皮腫
A.業務上疾患として認められた悪性中皮腫例の検討
 建設労働者では胸部レントゲン写真で約2〜3%、剖検で80%もの胸膜肥厚斑を認めている。それ程までに、建設作業者には、石綿暴露による生物学的な反応が現実に生じている。こうした状況は、建設労働者に悪性中皮腫のリスクが増加していることを示唆している。
 我々は、1986年以来、建設労働者の石綿関連疾患の予防・教育・症例収集など多面的な研究活動を続けてきた。この間に我々が相談を受け、業務上疾患と認定を受けた建設労働者の悪性中皮腫の症例は15例であった(Table4)。
 職種別に見ると、大工と電工が各4例、保温工、解体工、溶接工、板金工、石工、ブロック工、塗装工が各1例で、11例が胸膜原発、4例が腹膜原発であった。
 年齢は33歳から82歳、平均59歳で、作業年数は最短10年、最長45年であり、平均作業年数は35.9年であった。15例中12例は石綿肺所見を認めず、2例が石綿肺所見、1例が珪肺所見を示していた。
B.建設労働者に見られた悪性中皮腫の症例
1)電エの悪性中皮腫
 Fig.23は電工の胸膜悪性中皮腫の症例である。電工のみで約50年、他の職業に従事したことはなく、電気の配線作業での直接暴露および建設現場での間接暴露が発症要因と考えられた。

2)溶接エの悪性中皮腫
 Fig.24は溶接作業36年で発症した胸膜悪性中皮腫の例である。本例は建設現場で鉄筋・鉄の溶接作業で、吹き付けられた石綿からの暴露を受けるだけでなく、耐火扉の製造も行ったことがあった。その作業は、扉の空間に石綿を詰めて溶接する作業で、比較的高濃度の石綿暴露があったものと考えられた。肺内の石綿分析では、クリソタイルの他に、アモサイト、トレモライトを検出した。

3)解体エの悪性中皮腫
 Fig.25は解体工に見られた胸膜悪性中皮腫の胸部レントゲン写真である。解体工として45年間、建物の解体作業に従事してきた。胸部レントゲン写真で石綿肺所見は認めなかったが、胸部CTで健常側である右側の背部に壁側胸膜の胸膜肥厚斑を認めた。
Fig.23 電工の胸膜悪性中皮腫
Fig.25 解体工の胸膜悪性中皮腫
Fig.24 溶接工の胸膜悪性中皮腫(大切片標本)
4)保温エの腹膜悪性中皮腫
 Fig.26は約41年間、保温作業に従事し、腹膜悪性中皮腫に羅患した例の腸管の肉眼所見である。小腸、胃、大腸を覆う腹膜は径2cmないし4cmに及ぶ多数の腫癌で占められ、腸管は大きな塊となっている。本例では石綿肺所見は認められず、臨床的には胸膜肥厚斑は認められなかったが、剖検で壁側胸膜に広範な胸膜肥厚斑を認めた(Flg.27)。
Fig.26 保温工の腹膜悪性中皮腫(剖検所見)
Fig.27 保温工の腹膜悪性中皮腫例の胸膜肥厚斑
C.最近の建設作業者の悪性中皮腫発症動向
 平成5年以降の神奈川県連の中皮腫死亡は2例、平成4年以降の埼玉土建の中皮腫死亡は4例であったが、平成9年以降、東京土建では中皮腫による死亡は9名に上るなど、中皮腫死亡の増加傾向が著しい。職種別では、大工5例、床・内装と塗装工がそれぞれ2例で、冷暖房、鉄骨、建築金物、配管、畳などが1例ずつであった。
D.考察
 疫学的な研究ではRobinsonら10)はアメリカの建設労働者の検討で、配管工と電工に悪性中皮腫の有意の増加を認めたが、大工では増加傾向を認めたものの有意の増加ではなかったとしている。
 Malkerら11)は、1961年から1979年のNational Swedlsh Cancer Registryに登録された35例の腹膜悪性中皮腫のうち13例が建設労働者であり、保温工のriskか特に高かったとしている。また、Mouriら12)は1974年から1990年に日本剖検輯報に記載された947例の悪性中皮腫のうち49例が建設労働者であり、19例が電工および配管工であったとし、電工のriskの高さを指摘している。
 Petoら13)はEngland,WalesおよびScotlandの建設労働者の中で、配管工、ガス配管工、大工、.電工、建設作業者、左官、塗装工に悪性中皮腫の有意の増加を認めたと報告し、建設労働および建築物の維持、管理作業における石綿暴露が今後の悪性中皮腫死亡の重要な原因となるであろうと指摘している。
 我々の経験した症例からも、建設労働者の全ての職種に悪性中皮腫の危険性が指摘される。しかし、建設労働者の職種別人員構成を考慮すると、比較的人員の多くない電工に4例も認めたことは、電工での石綿暴露が少なくないことが示されており、悪性中皮腫の面から特に注目された。
  N.まとめ
 建設労働者の石綿による健康障害について検討した結果、次のような知見を得た。
1. 配管工、保温工、鉄工、ハツリ工、電工に石綿胸膜炎を認めたが、石綿胸膜炎が比較的低濃度の石綿暴露でも発症すること、そして、石綿暴露開始後20年未満では石綿胸膜炎が最も多い石綿関連疾患であることから、建設労働者に多くの石綿胸膜炎が発症しているにもかかわらず、殆どが正しく診断されていないと推察された。
2. 建設労働者では、高濃度暴露機会のある石綿吹き付け作業者や空調・保温工はもちろんのこと、鳶・ハツリ工や大工、電工、塗装工、水道配管工など、広範な職種に石綿肺の発生を認めたが、大工に典型的な高度の石綿肺を認めたことは、今後の対策の重要性を指摘したものであった。
3. この間、石綿関連肺癌として19例が認められた。平均年齢は60.8歳で、一般の肺癌好発年齢より若齢であった。職種は、空調・保温工、解体工など、比較的高濃度の石綿暴露作業のみならず、大工、配管工、板金工、電工、左官、タイル工など、多くの職種に認められた。
4. 石綿関連肺癌のうち、石綿肺所見を有する者は19例中5例で、多くは石綿肺所見を認めなかった。また、胸部レンげン写真で胸膜肥厚斑を認めた例は19例中11例で、石綿肺所見と胸膜肥厚斑の両方の所見を認める5例を除く6例が、胸膜肥厚斑のみの所見で石綿関連肺癌と認められた。他方、石綿肺所見および胸部レントゲン写真による胸膜肥厚斑の両者ともに認められなかった例は19例中8例であった。この8例中7例が剖検で、1例が手術時の所見として、いずれも壁側胸膜に胸膜肥厚斑を認めた。
5. 1986年以降、今日までに我々が相談を受け、業務上疾患と認定を受けた建設労働者の悪性中皮腫の症例は15例であった。職種別では、大工と電工が各4例、保温工、解体工、溶接工、板金工、石工、ブロック工、塗装工が各1例と多くの職種に発生を認めたが、比較的人員の少ない電工に4例も認めたことは特に注目された。
6. この数年来、首都圏の建設作業者に悪性中皮腫死亡の増加傾向が著しい。職種は、大工を中心として多彩であり、建設作業の多くの職種に中皮腫のリスクが高まっていることが明確となった。
7. 以上の成績から、建設労働について石綿暴露作業と明確に規定し、健康障害の予防対策を強力に実行するとともに、健康障害を受けた者について充分な救済が不可欠である。
*  職業性疾患・疫学リサーチセンター 労働科学研究所
** 職業性疾患・疫学リサーチセンター 芝病院
  文  献
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12) Mouri,I.et al:Occupational and regional distribution of malignant mesothelioma using database ofAnnals of Pathological Autopsy Cases in Japan.,Jap.J.publ.Health 40(10):1284,1993.
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